少し春の足音が聞こえてきたと思ったら、また冬の寒さが戻ってきました。
まさに、三寒四温を経て本格的な春がやってくるのですね。
季節は二十四節気の「啓蟄」へと巡りました。
《二十四節気》のひとつ啓蟄(けいちつ)は春の節気、立春、雨水、啓蟄、春分、清明、穀雨の3番目の節気です。

大地が暖まり、冬ごもりをしていた生き物が土の中にも届いたあたたかい気配を感じて活動し始める時期です。
ひと雨ごとに春になっていく、そんな季節の気配を感じながら。
「啓」という文字には「開く」「開放する」などの意味があり、「蟄」には「虫などが土の中に隠れて閉じこもる」という意味があります。
実際に虫が活動を始めるのは日平均気温が10℃を超えるようになってから。
鹿児島では2月下旬、東京や大阪で3月下旬、札幌は5月上旬頃に当たります。
虫が冬眠から目覚めるとそれを補食する小動物も冬眠から目覚め動き始めるのです。
そしてしばらくすると、桃の花はほころび始めて、青虫が蝶になり舞い始めます。

3月に行われる大きな行事に雛祭り(五節句のひとつ「上巳の節句」/桃の節句)がありますが、雛人形を飾りっぱなしにしているとその家の娘の婚期が遅れる、とよく言いますよね。
雛人形を仕舞うのは、啓蟄までに行うとよいと言われていますので遅れないようにしましょう。
「IeNiwa季節めくり」Vol.2/No.1 睦月/1月《小寒》の「IeNiwa時間」にて葉痕と冬芽を探してみましたが、この季節にはそれらの芽吹きを観察しに庭や外に出てアンテナを張ってみませんか。
「春探し」でもいいのですが、その中でも「木の芽」はほんの一瞬だけしか見ることのできない姿。
枝だけになった落葉樹にぽつりぽつりと色鮮やかな「木の芽」が顔を出し始めた姿は、案外見たことのないものかもしれませんよ。






啓蟄の《七十二候》
・初候:蟄虫啓戸(すごもりのむしとをひらく) 3月5日〜3月9日頃
・次候:桃始笑(ももはじめてさく) 3月10日〜3月14日頃
・末候:菜虫化蝶(なむしちょうとなる) 3月15日〜3月19日頃
《蟄虫啓戸(すごもりのむしとをひらく)》

「啓蟄」を詳しく表したもので、虫に限らず、様々な生き物が冬ごもりから目覚める頃です。
雨が降るごとに気温が上がって日差しも少しずつ強まり、春が近づいていることを実感できるようになります。
春が近づいてくるこの時期は、大気が不安定で、強風や嵐、雷が発生しやすくなります。
春に見られる雷は「春雷(しゅんらい)」と呼ばれ、寒冷前線が通過するときに生じます。
なかでも立春を過ぎてから初めて鳴る雷は「初雷(はつらい/はつかみなり)」といい、この頃の雷は「虫出しの雷」と呼ばれています。
先人たちは、冬眠中の虫や小動物が雷の音に驚いて土の中から這い出してくるととらえたのですね。
そんな虫たちの様子を想像してみると、なんとも微笑ましくて「おはよう」と言いたくなります。
この時期は、朝は晴れていても午後から暴風雨になったり、局地的に雹(ひょう)が降ったりすることも。
天気予報を忘れずにチェックして備えましょう。
《桃始笑(ももはじめてさく)》

桃の蕾がほころび、花が咲き始める頃です。
昔は花が咲くことを「笑う」「笑む」と表現していました。
花が咲くことを「花笑み」といい、花の様に笑うことも「花笑み」といいます。
花も人も笑う、そんな季節が春のイメージですね。
ちなみに、春の山の様子は「山笑う」と言われます。
若葉や花の淡い色合いにかすむ山々もまた、微笑んでいるように見えたのでしょうか。
先人たちは、草木や花、山の笑う様子を眺めながら、日々の暮らしに季節を感じていたのでしょう。
まさに五感が豊かになる日常ですね。

桃は、サクラが咲く前の3月下旬~4月頃に、白や赤、ピンクの花を咲かせます。
春に先がけて咲く梅、闌 (たけなわ) の春に開く桃、過ぎゆく春とともに散る桜。
どれも同じくバラ科に属する木の花ですが、それぞれに異なった味わいを持っています。
桃は日本では縄文時代以前から栽培されていましたが、江戸時代までは甘い品種がなかったため、薬用や観賞用の花木として楽しまれていました。
その後、江戸時代に甘みの強い種類が輸入されたことで品種改良が盛んに行われるようになり、花を楽しむ「花桃」と、食用の「実桃」に分けられるようになったそうです。
現在では、「桃」というと採果用の品種を指し、花や樹を観賞するための品種は「花桃(はなもも)」と呼ばれます。
白梅が咲き、紅梅、桃の花が咲き、垣根にはどんな花が咲くだろう、次は何が顔を出すのかと眺めるのは春ならではの愉しみですね。
桃の節句は3月3日(「上巳(じょうし/じょうみ)の節句」)で、まだ蕾の時期ですが、旧暦の3月3日は新暦の3月下旬から4月上旬にあたり、丁度桃の花が満開になる頃です。

《菜虫化蝶(なむしちょうとなる)》

冬を過ごしたさなぎが羽化して蝶になる頃です。
菜虫とは大根やキャベツなどアブラナ科の植物を食べる虫ということで、紋白蝶の幼虫である青虫をさしています。
紋白蝶のほかにも、いろいろな種類の蝶が舞い始める季節です。
先人たちは蝶のことを「夢虫」や「夢見鳥」と呼んでいました。
それは荘子の説話「胡蝶の夢」に由来するそうですよ。
蝶になる夢を見たけれど、本当の私は蝶であり、今は人間になっている夢を見ているだけではないかというお話。
夢と現(うつつ)がわからなくなり不思議な感覚を覚えるという幻想的なイメージに、華麗な変身をとげる蝶を選ぶ感性が素敵ですね。
こんな風に、自分の想いを自然の姿と重ね合わせて表現してみたいものです。