新しい年が明け、二十四節気の「小寒」に季節が巡りました。
これまで、4回にわたって暦にまつわるお話を「IeNiwa季節めくり」Vol.1としてお送りしてまいりましたが、今回からは「IeNiwa季節めくり」Vol.2として、その季節ごとのお便りを二十四節気ごとにお届けしていきたいと思います。
室内に籠りがちな暮らしの中で、自然や動植物、先人たちの思いに触れ、気持ちだけでもどこか遠くまで巡ってみませんか。
では、さっそく「小寒」の季節にまつわるお話を。
《二十四節気》のひとつ小寒(しょうかん)は冬の節気、立冬、小雪、大雪、冬至、小寒、大寒の5番目の節気となります。
小寒とは、この後に大寒を控え「寒さが極まる手前」という意味です。
1年で最も寒い時期を「寒(かん)」といい、立春になる寒の明けまでの約1か月は「寒の内」といいます。
その始まりが「寒の入り」。
この小寒から寒の入りを迎え、寒さが厳しい時期となっていきます。
【IeNiwa時間を楽しもう!~葉痕と冬芽を探して~】
そんな、寒さの中でも、植物たちは次の春を迎える支度をしています。
そんな様子を観察しに外へ出てみませんか?
お庭の樹にも見つけられるかもしれませんよ。
ほら、葉を落とした枝に、なんだか可愛らしい顔が?!
お猿さんのような、宇宙人のようなw
これは、寒さへの備えのひとつとして樹が葉を落とした痕である「葉痕」です。
そして、ほわほわの小さな白い部分が「冬芽」。
(↑センダンの葉痕と冬芽)
冬芽は、それぞれに寒さを防ぐ工夫をしながら、春の訪れを待っています。
↑こちらはアジサイの葉痕と冬芽。
まるで、とんがり帽子をかぶった妖精みたい!
↑ノリウツギの葉痕と冬芽
「ワレワレハ…」とおしゃべりし始めそう?!
それとも、どこかおとぎの国の王様?!
↑オニグルミの葉痕と冬芽
トーテムポールの様に連なって各方角をくまなくパトロールしているみたい。
↑モクレンの冬芽
サクラに先駆けて、早春から花を咲かせるモクレンは冬芽が銀灰色のふわふわした柔らかい毛に覆われてとてもゴージャス。
花芽も葉芽も枝先につきますが、ひときわ大きく目立っているのは密生した軟毛も長い花芽。
モクレンは、大きく育つ種類が多いので、冬芽を間近で観察する機会は少ないかもしれません。
でも、園芸品種の小型の系統など樹高3m程度に収まる低木もありますので、庭や鉢でも栽培可能です。
庭木として育てると、この冬芽を毎年間近で楽しむことができますね。
小寒の《七十二候》
初候:芹乃栄(せりすなわちさかう) 1月5日〜1月9日頃
次候:水泉動(しみずあたたかをふくむ) 1月10日〜1月14日頃
末候:雉始雊(きじはじめてなく) 1月15日〜1月19日頃
漢字が並んでいて難しく見えますね。
それぞれ少し詳しくみていきましょう。
《芹乃栄(せりすなわちさかう)》1月5日〜1月9日頃
芹がすくすくと群れ生えてくる頃です。
芹は春の七草のひとつとしてよく知られていますね。
芹の語源は、競り合うように生えるからだそうです。
根が白いので白根草(しろねぐさ)とも呼ばれました。
冬の寒さの中で採れる芹は、芹独特の香りが特に強く、寒芹(かんぜり)、冬芹(ふゆぜり)と呼ばれて珍重されるそうです。
五節句のひとつ1月7日の人日(じんじつ)にその年の健康を願って七草粥をいただきます。
七草は早春に芽吹くことから、邪気を払うといわれ、無病息災を願う意味があります。
この習わしには、お節料理で疲れた胃を休ませて、野菜が乏しい冬の時期に不足しがちな栄養を補うという側面もあるのだそうです。
《春の七草》
セリ・・・・・・・芹
ナズナ・・・・・・薺 :「ペンペングサ」のこと
オギョウ(ゴギョウ)・御行・御形 :「ハハコグサ・母子草」のこと
ハコベラ・・・・・繁縷・蘩蔞 :「ハコベ」のこと
ホトケノザ・・・・仏の座 :現在の「タビラコ・田平子」のこと
スズナ・・・・・・菘・菁・鈴菜:「カブ・蕪」のこと
スズシロ・・・・・蘿蔔・清白:「ダイコン・大根」のこと
《水泉動(しみずあたたかをふくむ)》1月10日〜1月14日頃
地中で凍っていた水が動き始める頃。
解釈ではこうなりますが、実際には地下水は年間を通して温度変化がほとんどないそうです。
厳しい寒さが、見えないところでは少しずつ緩んできている、ということでしょうか。
それとも、そういった春の訪れを願って思いを馳せていたのでしょうか。
どちらにしても、自然を想像力豊かに観察した先人たちの眼差しが伝わってきますね。
1年で最も寒いこの時期の水は腐りにくく、いつまでもやわらかいといわれ、昔から酒や醤油の寒仕込みに使われてきました。
和紙もまた、寒の水で漉くと張りのあるよい紙ができるとされているそうです。
寒の時期の水は薬になるともいわれ、特に寒の入りから9日目「寒九」の水は特別効果が増すといわれました。
この日に雨が降ると「寒九の雨」といって、豊作の吉兆とされています。
1月11日は鏡開きですね。
餅は「望月(満月)」に通じて、丸い形が家族円満の象徴とされたことから、その一年の家族円満を願って神様にお供えした鏡餅のお下がりを頂くという風習です。
刃物では縁起が悪いので、槌(つち)で割って食べるというのが習わしです。
なぜ、鏡餅を「開く」というのでしょう?
鏡餅には、お正月に家々へ招き入れて、新しい年の豊作や無事を願うとされる歳神様が宿っているので、神様との縁を切らないように「割る」や「砕く」といわず、末広がりを意味する「開く」を用いて、縁起の良い表現をしたのだそうですよ。
近年では、鏡餅の形をしたパッケージに個包装の切り餅が入っているなど、鏡開きも簡単にできるものがありますね。
人々の暮らしに合わせて風習のカタチも変化していくことは自然なことでしょう。
つないでいく習わしのカタチの変化は免れませんが、その由来やいわれは、子供との会話や、一緒に食べるお汁粉などと共に、じんわりと語り継がれていって欲しいなぁ、と思うのです。
手間暇はかかりますが、少しゆったりとした気分で小豆を炊いて、美味しいあんこを作ってみるのも、案外いいストレス解消になるかもしれませんね。
1月15日は元旦の「大正月」に対して「小正月(こしょうがつ)」と呼びます。
(日付は次の候に移りますが、この候にてご紹介していきます。)
小正月の朝には、五穀豊穣や無病息災を願って、「小豆粥」を食べます。
昔から、赤い色のもの(小豆)は邪気を払うと考えられていたからだそうです。
年神様を迎える多くの行事は大正月に行われますが、豊作や家庭円満などの家庭的な行事は小正月の行事として各地域に残っています。
皆さんもよくご存じの秋田県の「なまはげ」に代表される「小正月の訪問者」もそのうちのひとつ。
元日に飾った門松や注連縄(しめなわ)はこの前日か小正月に外して、一般的には柳の枝に餅花や繭玉をつけて飾ります。
(正月事始めから年神様がお帰りになるまでの期間を指す松の内の期間は、地域によって異なり、北日本や東日本は7日、関西など15日までとなっています。)
たわわに実った稲穂を表現し、柳の枝などに、紅白の餅や団子を小さく丸めたものをつけた飾りです。
「どんど焼き」も小正月に行われます。
どんど焼きは、神社などで正月飾りや書初めを燃やして無病息災を祈ります。
《雉始雊(きじはじめてなく)》1月15日〜1月19日頃
雄の雉が鳴き始める頃。
雄の雉の目の周りには赤い肉腫があります。
繁殖期になるとこの肉腫が肥大化して顔が鮮やかな赤色になって、赤いものに対して攻撃的になります。
それは縄張り争いの他の雄に対しての本能で、「ケーン」という大きな鳴き声を発して縄張り宣言をします。
メスを求めて高鳴きをするという説もありますが、この高鳴きが実際に盛んになるのは3月頃で、まだ少し先のことだそうです。
ところで、雉は日本の国鳥だということをご存知でしたか?
ヤマドリが深山にいるのに対し、比較的里に近い農耕地周辺に生息していて、人の暮らしの中にいたこと、雄の羽色が美しく性質が勇敢、雌は母性愛が強い、文学や芸術などでも古くから親しまれている、といったことが理由だそうです。
今では、暮らしの中に雉がいる、という感覚はなかなかなくなってしまいましたが、そういった先人たちの暮らしの先に自分たちがいるのだな、と思いを馳せることができますね。