
降る雪が雨に変わり、氷は解けて水になります。
立春から、さらに春の訪れを感じるようになる頃ということですね。
この時期から春にかけて降る雨は「養花雨 (ようかう)」や「催花雨 (さいかう)」と呼ばれ、梅や桜など春の花の開花をうながすと言われています。

こうした土や水が動き始める雨水は、昔から農業の準備を始める目安とされてきたのです。
大地が目覚め、潤い始めると水蒸気が立ち上り、霞がたなびき始めます。

草木も芽吹いて、まだ顔を出したばかりの柔らかな緑が目立つようになります。
この季節になると春の鼓動を身近に感じることができるのではないでしょうか。






住み心地のいい巣箱を架けて、小鳥たちにプレゼントしてみませんか。




雨水の《七十二候》
・初候:土脉潤起 (つちのしょううるおいおこる) 2月18日〜2月22日頃
・次候:霞始靆 (かすみはじめてたなびく) 2月23日〜2月27日頃
・末候:草木萌動 (そうもくめばえいずる) 2月28日〜3月4日頃
《土脉潤起 (つちのしょううるおいおこる)》

早春の暖かな雨が降り注ぎ、大地が潤い目覚める頃。
降っていた雪がしっとりとした春の雨に変わり、凍てついた大地もゆっくりと潤い始めます。
春の雨で潤い匂い立つ大地や、陽射しにとけた雪でぬかるみが多くなる頃でもあります。
舗装された道路が普通となってしまった現在では、あまりピンと来ないかもしれませんね。
また、積もった雪が解け始めて土が顔を出している様子を「雪間」や「雪の暇」、そして、そこにもう芽吹き始めた草を「雪間草(ゆきまぐさ)」といいます。

《霞始靆 (かすみはじめてたなびく)》

春霞がたなびき始め、山野の情景に趣が加わる頃。
「靆=たなびく」は、霞や雲が層をなし、薄く長く漂っている様子を表しています。
春になると、冬の乾いた空気に比べて大気中に細かな水滴や塵が増え、遠くの景色がぼんやりとかすんで見えることがありますが、こうした現象を「霞(かすみ)」と呼びます。
「霧(きり)」「靄(もや)」「霞(かすみ)」と似たような言葉がありますね。
「霧」と「靄」は、空気中の水蒸気が飽和状態になり、細かな水滴となった状態です。
気象用語では、視程1km未満の状態を「霧」、視程1km以上10km未満を「靄」と呼びます。
「霞」は、「霧」や「靄」と違い、周囲の景色がぼやけた状態を指す言葉なので、黄砂や煙であっても「霞」と表現されることから、気象を表す言葉としては使われません。
天気予報では使われないですが、文学表現の上では春の季語としても良く使われます。
朝霞、夕霞、薄霞、八重霞、遠霞など、時間や状態によって美しい言葉で表されてきました。
先人たちは、山々の裾野にうっすらと広がるこの春霞のことを、春を司る女神「佐保姫 (さおひめ)」がまとう着物の裾に例えたり、 霞がかかっている様子を衣に見立て「霞の衣」と表してきました。
こういった美しい日本の語彙を季節と共に知り、感じるというのも、心を豊かにしてくれるのかもしれませんね。
《草木萌動 (そうもくめばえいずる)》

次第に和らぐ陽光の下、草木が萌え出す頃。
だんだんと春めき、暖かい日差しに誘われるかのように、地面や木々の枝々から萌黄色の小さな命が一斉に芽吹き始めます。
冬の間に蓄えていた生命の息吹が外へと向かって現れてくるかのよう。
巡る季節に合わせて生きる、植物のチカラを一番感じる時かもしれませんね。
着々と長くなる陽の光が大地に降り注ぎ、春の訪れが目に見えて感じられるようになってきます。
陰暦2月の別名に「木の芽月(このめづき)」があります。
「木の芽 (このめ)」とは、春になって芽吹く木々の芽のことで、木の芽が芽吹く季節を「木の芽時(このめどき)」といいます。
また、木の芽時に降る雨は「木の芽雨」や「木の芽起こし」、吹く風は「木の芽風」と呼ばれます。
この時期の雨は植物が花を咲かせるための大切な雨で、木の芽が膨らむのを助ける様に降ることから「催花雨(さいかう)」「木の芽萌やし(このめもやし)」ともいわれます。
この時期、ひと雨ごとに春が近づいてくることを、新芽を通して感じて天気に表したり、ふと気づけば道端に咲いている花や、芽吹いた草木に目を向けて季節に当てはめるほど、先人たちは古来自然と近しい暮らしをしていたのですね。
日常の暮らしの中で、自然との距離が離れてしまいがちな現代の私たちは、少し意識的に自然に目を向け、感じ、季節の巡りを実感することが必要かもしれません。